【公募川柳応募虎の巻/公募川柳入選のコツ】第6回 公募川柳と文芸川柳 川柳の未来のために【尾藤川柳さん】

川柳の世界

「川柳」といっても一面から見ていると全体が見えなくなります。

今回の「公募川柳応募虎の巻」は、あくまでも「公募川柳」という分野においての考え方で、すべての川柳について当てはまる公式ではありません。もちろん、公募川柳の話であっても、他の川柳と共通の部分も多くあります。

さいごに公募川柳からさらに川柳の文芸、文化へ展開する道を御紹介いたしましょう。

この図は、川柳という世界の大雑把な分類です。260年程前の江戸に始まった川柳は、時間の経過とともに少しずつ拡がりを見せてきました。江戸時代の川柳がそのまま「同じ」ではなく、進化してきたと言えるでしょう。

今、江戸の川柳を考える人々は、江戸風俗や江戸の言葉の研究に川柳を使います。「古川柳研究」という分野があります。その背景には、無数の「江戸川柳」があり、まだまだ研究しつくされたわけではないので、この分野も面白い世界です。

明治以来、新聞が大きな川柳の発表の場になりました。主に時事的な川柳を扱っていることが多いですが、中には文芸川柳を扱っている川柳欄もあります。

明治時代の後半、新聞への川柳投稿者が集まって「吟社」や「川柳会」が多く生まれ、今日まで続く「川柳界」となりました。結社の川柳を雑誌(機関誌)と句会を中心に行っているのがそれです。残念ながら、社会に開かれた集まりではなく、趣味の会の延長の様になっています。ここでは、句会の楽しみが一番です。

平成の初めから登場した「サラリーマン川柳」によって<公募川柳>が社会現象となり、公募川柳は、2007年の「川柳250年」事業を契機に俳句の公募をも凌駕しました。

誰でも入りやすい川柳が、企業のイメージ戦略や広報にも使われるようになったものです。

これは、私ども川柳を専門とする者にとって嬉しい現象でしたが、「川柳は誰にもわかる」といった誤解によって、川柳家を選者としない多くの公募川柳が生まれてしまい、NHKなどの公共放送でも「名句」として紹介する作品の半数近くが無意味な字余り表現であったりするのも「川柳は何でもあり」と一般に思われていることによるのでしょう。

ある高校の国語の授業で俳句が扱われたのち「今、ブームになっている川柳を作ってみましょう。川柳は俳句と違って何でも好きなように作ればいい…」と教えた先生がいらっしゃいました。これを聞いた娘が、唖然としたことを聞かされたと前にも述べましたが、少し川柳を齧っていれば、定型詩としてのリズムの大切さを無視するような「何でもあり」は、在りえません。これが、一般の川柳という存在への認識なのです。

無責任な選考過程で生まれた川柳作品が一人歩きし、またメディアなどでも拡散されてしまい、川柳への誤解が広がらないことを願っています。

文芸としての川柳

中島紫痴郎という若き川柳家が「川柳を詩にしたい。詩は時代の要求である」と言ったのは、明治42年(「矢車」)のことでした。

単なる句会の「遊び」ではなく、当時流入してきた西欧の<詩>のように「文芸」にしたいという欲求です。以来、川柳は文芸としての道も模索しながら進歩してきました。

では、文芸としての川柳とは、どんなものなのでしょうか。

① 常に新鮮(日々新しい題材)

もし、川柳が文芸であり得るとしたら、常に前進する表現と内容を持った作品を生み出すときでしょう。過去の作品の「繰り返し」は、文芸ではありません。公募では、少し言葉を入れ替えただけの句が応募され入選しているのを見ることが有りますが、これは<入選>することばかりを目指した発想でしょう。「文芸」は<一回性>の芸術と心得ることが大切です。

② 独自の方法論の開発

サラリーマン川柳を見ていると、新しい表現技法が生まれ、川柳の専門家の目から見ても唸らせられるような驚きがあります。たとえば、

ドットコム どこが混むのと聞く上司         ネット不安     (第14回)

デジカメのエサはなんだと孫に聞く            浦島太郎       (第15回)

これは、一つの新しい表現パターンですが、一度こういった句が入選すると、言葉を入れ替えただけの句が無数に生まれてきます。もちろん、時代を捉えていればそれでも面白いのですが、「文芸」としては、新しい表現形式を生み出すのも重要な要素です。

上手くいったからといって千篇一律の表現方法になってしまっては文芸とはいえません。技術的歩留まりを追い求めるより、新しい表現に挑戦するのが文芸です。

③ 最小限度の作者意識

公募川柳では、どんなに文芸的に優れた川柳を作っても、募集の意図に合わなかったり選者や事務局がピンと来なかったりしたなら、入選はおぼつきません。どこまでも「入選」することが至上命題です。

こんなとことでは、「作者」の意識より募集側への忖度の方が優先されそうですが、「文芸」としての川柳は、何よりも作者の思いが主体で、入選しようがしまいが、個の価値観の表現になります。

入選だけを目的とした作者意識の欠如からは、なかなか文芸作品は生まれません。

ここに、公募川柳という土俵とは異なる文芸川柳の土俵があります。

作者自身にとって価値があれば、その川柳は、入選落選に関わらず生きた文芸として存在することが有ります。

どちらも川柳という文芸の一部です。忘れないでやってください。

④ 常に挑戦者

「伝統」にあぐらをかいてしまい、進歩の無いくり返しになってしまうと文芸にはなりえません。新しい表現を求めながらも、打ち立てた今日の表現は、明日には古くなります。

公募川柳も長く続いていると、過去にあった作品に似た句が再び現れ、マンネリ化してしまいます。慢性的(衰弱・退嬰)を避け、「常に挑戦者」であることが、作家の意識として大事です。

⑤ 使命感がある

文芸としての川柳を作ろうとする時、作者は、上記のような内容や形式の新しさ、作者自身の価値などを表現しようとする意識が働きます。さらに言えば、川柳という文芸を前へ勧めて行こうという「使命感」にもつながります。

入選いがいの目標を持たないような作品は、文芸とは無縁ということになります。

コンボ川柳ばかりでなく、川柳界の多くの句会でも老人の楽しみとして継続されることが多くなり、使命感を持った作者が減ってしまいました。

公募川柳の中でも、こうした使命感を持って作句に臨めば、入選句の中からも文芸的作品が生まれる可能性も出てきますね。

文芸川柳の生れる場

ちょっと抽象的な言い方だったかもしれませんが、こう言ったことを意識したものが文芸としての川柳への道につながるでしょう。

公募川柳のような「射幸」の場でも文芸性の作品が生まれる可能性は少なくありませんし、現に多くの名作が公募川柳から生まれています。

川柳界における「句会」は、改善の余地がありますが、作者一人一人の意識、選者の意識によって改革も出来る事でしょう。

私どもは、「川柳はいふう」とい川柳の雑誌を通じて「創作」(課題による作句ではなく作者の内側から湧いてくる表現を川柳にする作品)を通して、「個性」の表現としての川柳を考えています。ここには、上手、下手などを超えた作者個人の表現を大切にしています。

一番文芸としての川柳に近い場ではありますが、ここでも作者の意識が大切です。

文芸としての川柳に興味のある方は、是非とも一緒に新しい川柳の表現世界の探究者になってください。そういった作品の発表の場として「川柳はいふう」などが生かされれば嬉しく存じます。

もちろんメディアの川柳からも文芸としての川柳は生まれる事でしょう。これも作者次第、選者しだいの「意識」が重要なポイントです。

おわりに

6回にわたって公募川柳入選のコツを<公募川柳応募虎の巻>として紹介いたしましたが、これは、あくまでも作句の上の手掛かりにすぎません。

作者の皆様の創意工夫、新しいものへの挑戦が名句を生み出します。

選者としてそういった新しい表現や価値観を見逃さぬよう、しっかりと目を配りながら川柳という文芸・文化が進歩していくように心がけたいと思います。

この記事を読んでいただいた皆様に感謝申し上げますとともに、こんな機会を与えてくださいました<公募川柳データベース>の松本様に心よりの感謝を申し上げます。

公募川柳応募虎の巻/公募川柳入選のコツ

 

尾藤川柳さんプロフィール

尾藤川柳

十六代川柳。川柳公論社主宰。女子美術大学特別招聘教授。

1960年、東京生まれ。
15歳より「川柳公論」にて川柳入門、尾藤三柳に師事。24歳で十五代・脇屋川柳に師事。川柳公論編集委員ののち「川柳さくらぎ」主宰、2016年、師三柳の逝去により川柳公論社代表となり「川柳はいふう」を主宰。2017年、十五世川柳逝去によりその允可によって「櫻木庵川柳」として立机、十六代目川柳を嗣号。
「社会の中の生きた川柳」というテーマで広く活動。
川柳普及の教室、著述、公募川柳選者を務め、川柳の行事企画者として2007年の「川柳250年」行事や、2009年の「川柳とマンガ—そのエスプリ—展」(群馬県立土屋文明記念文学館)2015年「柳多留250年」、2017年には「初代川柳生誕300年祭」、2019年には「北斎没後170年—北斎と川柳」行事など川柳の歴史文化発信の行事運営にあたる。
また、「川柳学」の推進により川柳文化の向上を目指すとともに川柳史料の散逸を防ぐため<朱雀洞文庫>(Web川柳博物館として公開)を整備して、史料の収集・保存・修復・研究・公開を行うなど川柳普及活動を行う。
著書に『川柳総合大事典』<用語編>および<人物編>(編著・2007)、『目で識る川柳250年』(2007)、『川柳のたのしみ』(2011)、『短冊の書き方と鑑賞』(2018)ほか入門的テキストや句集など多数。

ホームページ:

<ドクター川柳> http://www.doctor-senryu.com/
フェイスブック<尾藤川柳> https://www.facebook.com/senryu.bitoh
YouTube<川柳博物館> https://www.youtube.com/user/Issen575
YouTube<RyuTube>川柳入門 https://www.youtube.com/channel/UCVAXdQUgVSzrErmZy1O4vXg

おすすめの記事